トルコ

①トルコ編 白の奇跡、パムッカレへ──石灰棚と古代ローマ遺跡に癒される旅

2025年11月20日

第1章:はじまりは「一枚の写真」から

パムッカレという名を初めて聞いたのは、旅仲間がSNSに投稿していた一枚の写真だった。 真っ白な階段状の岩にエメラルドブルーの水が溜まり、空の青さと溶け合うように輝いていた。 その幻想的な光景は、どこかこの世のものとは思えない神聖さをまとっていた。

「ここは、どこ?」

調べてみると、そこはトルコ西部・デニズリにある世界遺産「パムッカレ」。 トルコ語で「綿の城」という意味を持ち、古代ローマ時代の温泉保養地としても有名な場所だった。

鍼灸師として世界を巡る私にとって、身体を癒す力を持つ土地は特別な意味を持つ。 旅先に選ぶ基準は、観光名所の知名度よりも「身体が整う感覚」があるかどうか。

パムッカレの石灰棚と温泉、そして古代遺跡──

これは、ただの観光ではない。「整える旅」だ。 そう直感し、私はイスタンブールから国内線でデニズリへと飛び立った。

第2章:パムッカレへの道と第一印象

デニズリ空港からパムッカレの町まではシャトルバスで約1時間。 のどかな田園風景を抜け、町が見えてくると、遠くに真っ白な山のようなものが現れた。

それが、石灰棚だった。

水に含まれる炭酸カルシウムが地表に沈着し、何千年もかけて形成された自然の造形美。 まるで雪山のような白さなのに、気温は温暖で風が心地よい。

パムッカレの町はこじんまりとしていて、観光地でありながらもどこか田舎の素朴さを残している。 道沿いには小さなホテルやロカンタ(大衆食堂)、温泉付きのスパ施設も多い。

まずは宿にチェックイン。洞窟ホテルのような奇抜さはないが、バルコニーからは石灰棚が一望できた。 その景色を眺めながら飲むトルコチャイの味は、格別だった。

第3章:裸足で歩く、白い大地

パムッカレの観光のハイライトは、なんといっても石灰棚を裸足で歩く体験だ。 保護のため、靴の着用は禁止されている。チケットを買い、入口で靴を脱ぎ、白い世界へと足を踏み入れる。

最初の一歩。冷たい石灰の感触が足裏を包む。 ややざらついているが滑ることはなく、踏みしめるたびに地球の肌に触れているような感覚になる。

棚田状に連なる浅い水たまりに足を浸すと、ほんのり温かい。 水温は35℃前後。流れ込む温泉が途切れることなく、棚に注がれている。

足湯に浸かるようにして、腰を下ろす。 目の前には、空と大地の境界が消えるような真っ白な世界。

ここでしばし「呼吸を整える」ことにした。

肺にゆっくりと空気を送り、吐く息とともに余計な緊張が流れ出す。 旅の疲れ、都会での忙しさ、自分を責める思考──すべてが溶け出すようだった。

鍼灸でいう「肺・大腸経」に刺激が入るこの足裏感覚は、まさに経絡を整える自然治療だと感じた。

第4章:ヒエラポリス遺跡と古代の温泉療法

石灰棚の頂上に登ると、そこに広がっているのは「ヒエラポリス遺跡」。 かつてこの地を治めていたローマ帝国が築いた、温泉保養都市の遺構だ。

円形劇場や列柱通り、ネクロポリス(墓地)などがほぼ完全な形で残されており、 特にローマ浴場跡は圧巻。2000年前の人々も、ここで同じように身体を癒していたのだろう。

注目すべきは「アンティーク・プール(クレオパトラのプール)」。 温泉の中に沈むローマ時代の石柱の間を泳ぐという、世界的にも珍しい温泉施設だ。

ぬるめのお湯に浸かりながら、かつての歴史に思いを馳せる。 重力がほどけ、身体が浮かび、脳が深く緩む。

神経系の過緊張が緩み、自律神経が整う感覚。 まさに鍼灸で目指す「整った状態」が、ここには存在していた。

第5章:夜の静寂、エネルギーの再統合

観光客の姿がまばらになった夕方。 再び石灰棚を訪れると、そこは昼とは全く違う表情を見せていた。

白い岩肌が夕陽に染まり、やがて月明かりが淡く照らし始める。 風も静まり、聞こえるのは湧き水の音だけ。

この時間帯、私は石灰棚の上に胡坐をかき、軽く目を閉じた。

足裏から伝わる大地のエネルギー。 全身を包み込むような温泉の蒸気。 そして、遠くで聞こえるフクロウの鳴き声。

都市生活では感じることのない「自然との完全な同調」が起きていた。

ここで、自分の中に溜まっていたあらゆる“疲れ”が剥がれ落ちた気がした。

気(エネルギー)、血(栄養)、神(精神)が一致する。

パムッカレは、ただの観光地ではなく、“再統合の聖地”だった。

第6章:旅する鍼灸師の処方箋「パムッカレ編」

この旅を通じて、私は「自然の力が持つ治癒力」を再確認した。

もしあなたが心身のバランスを崩し、「リセット」したいと感じているなら── パムッカレは最良の旅先になるだろう。

🔹こんな人におすすめ

  • デジタル疲れ・情報過多に悩んでいる人
  • 自律神経が乱れがちな人
  • 自分を見つめ直す時間がほしい人
  • パワースポット的な旅が好きな人

🔹訪れるベストタイミング

  • 春(4〜6月)や秋(9〜10月)
  • 早朝や夕方に訪れることで混雑を避け、エネルギーを静かに感じられる

🔹現地で実践したいセルフケア

時間帯 おすすめケア
早朝 足湯しながら深呼吸ワーク(3-5分)
石灰棚を歩きながら「経絡ウォーク」
夕方 胡坐で座り、耳を温めるセルフ灸感覚マッサージ

第7章:まとめ──白い大地に、自分を映し出す

パムッカレの旅は、私にとってただの絶景巡りではなかった。

白くて静かな大地に立ったとき、自分の中の雑音が浮かび上がり、 やがてそれが静かに溶けていく過程を見つめることができた。

古代から人々が癒されてきたこの土地には、 文明を超えて通じる「身体を整える力」が流れている。

もしあなたが、

「どこかで、自分を見つめ直したい」 「言葉にならない疲れを、癒したい」

そう思っているなら、パムッカレはその旅の始まりにふさわしい場所だ。

次回の【第②回】は、魂が震える旋回舞踏の街──コンヤへ。 旅と祈りと癒しが交差する地を訪ねます。

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